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はじめにオーストラリアのこと
06年10月末から11月初めにかけて富山経済同友会の豪州経済視察に参加し、観光や鉄道資産等感じたまま報告したい。
豪州の移民は建国当初、イギリス系かアイルランド系が大半であったが、第2次大戦後に急速に多国籍化した。他の欧州諸国、アジア、アフリカ出身者が増え両国出身者は全体の約1割にまで減少している。
現在、世界中から移住した約200の民族が暮らし、「多文化主義」を国是とする豪州は、4人に1人が外国生まれで、両親またはどちらかの親が外国出身という人は4割に達している。
人口約2千万の豪州は73年までは白人以外を制限する「白豪主義」を採っていたが、人種差別を撤廃し、毎年約10万人が新たな永住者となっている。
同じ移民国家でも米国とはかなり異なる特徴がある。米国では価値観や愛国心の面で『アメリカ人になること』を求められるが、豪州には出身国の文化や伝統を守りながら生活できる寛容さがある。例えば国民の約15%が英語以外の言語を話し、定住者の6分の1が永住権を持たないという統計がある。異文化を温かく包み込むオージー気質といわれ、その精神は、「マイトシップ」という言葉で表現される。マイトは豪州なまりで「仲間」。荒野を開拓した時代に培われた助け合いを重んじる心だ。その響きには「同じ人間同士じゃないか」という、おおらかさがにじむ。そういう所が移住を増加させている要因であり、日本をはじめアジアの若者達の人気、魅力になっている様だ。様々な個性や思いを温かく受け入れる包容力が、豪州という国土の美しさでもある。
日本の約20倍の広さをもち大自然に恵まれた広大な台地、トロピカルな北部、緑あふれる南部、白い砂が果てしなく続く海岸線、ワイルドフラワーの咲き誇る内陸部等、コントラストに満ちた豊かな国である。同時に人種の坩堝の多民族・多文化国家でもある。
そういうイメージを持つ雄大なオーストラリア大陸ということで年甲斐もなく少しワクワク気分の出入り9日間の旅であったが、今回の旅体験でオーストラリア観を一層多彩なものにさせた。
個人的訪問目的
従来、私の旅行は研修視察主体であったが今回初めてほとんど観光目的に参加し、その目的として3つあった。
一つは交流人口増から人口誘致して定住化を促す観光である。
人口誘致と定住化を進める上で、観光はその突破口であり、観光を通じて地域を知ってもらう戦略的役割をもっている。
観光はまず1回来てもらうこと、そしてリピート化し何回目かに長期滞在して頂いて、その土地が好きになり、家を求める人も増え、やがて住もうかなとなる。観光の最終的意義はこの定住促進にあると思われる。
代表的な例が日本では沖縄、外国ではオーストラリアである。日本の国内観光は短時間に名所旧跡を次々に巡っていくという「通過型、短期滞在型」といわれているが、現在、既に日本の休日は世界で一番多くなっているといわれ、働き過ぎと少ない休暇のせいではない。その根拠として日本人が海外へ行くと一週間以上の滞在が多くなっている。又、旅行費用が問題ではなく、何が違うかというと、海外は多様でおもしろくてその割りに安いのである。ほとんどは一週間以上の滞在メニューがある。
日本・富山県の課題もここにある様な気がする。日本の旅行も団体旅行の「通過型」から、近年は一つの土地でじっくり楽しもうという「滞在型」に変わりつつある。しかし、多くなってきている個人、友人、家族旅行などの真剣な受皿として、残念ながら多くの地域があまり仕組みやおもしろいビジネスモデルを創出できず国際競争力も弱いのが現状である。今回は地域資源と基盤をどう組み合わせて交流人口増や一週間以上の長期滞在につなげ「光」を発信していく魅力ある観光地づくりのヒント探しであった。
二つ目に公共交通である。
LRT等の視察先として欧州が一般的だが豪州はあまり知られておらず意外にも路面電車大国であった。シドニー・メルボルン・タスマニア・パースのいずれの街も自家用車普及率は、人口10人当たり5−7台以上であり、ほぼ1人に1台と高いにもかかわらず公共交通が発達しており、観光客向けに多種多様な公共交通を活用した観光ガイドブックや時刻表がどこにでも置いてあった。中でもメルボルンのトラムは36年間廃止されていた路面電車を約10年前に復活させ現在は約275キロの路線があり世界最大規模である。LRT(次世代型路面電車システム)をはじめ新旧の無料有料の路面電車が縦横無尽に走っており、夜はレストランカーも運行。様々な公共交通施策は街ににぎわいと安心・安全をもたらしている。
とやま「鉄道文化」全国へ
今、全国の自治体・交通まちづくり関係者が最も目を引くのは、「世界で百番目の路面電車」と言われる富山ライトレールのLRT・愛称「ポートラム」である。路面電車は少子高齢化・環境の時代にふさわしい移動手段、というだけではない。有形・無形の動く文化財、すなわち、絵になる街の都市装置や近未来のまちづくりの極めて有効なツールである。
ポートラムの運行開始により、富山県は富山軌道線(市電)と万葉線を併せ、三つの軌道を持つ全国に類を見ない「路面電車王国」となった。さらに背景を探れば、軌道にとどまらず、地方鉄道の雄である富山地鉄を代表として質の高い物語性・とやま文化・コンテンツを持つ「ローカル鉄道王国」であることも浮き彫りにした。「鉄道文化」が富山県のブランド力を磨き全国化、世界化へと導き出し始めている。
LRTの軌跡
計画からわずか3年で開業にこぎつけたのは富山市長の強いリーダーシップと富山市民の支援体制のたまものであるが、これには万葉線が廃線の瀬戸際に立たされながらも高岡・射水両市民らの熱意などで存続を果たしたことがベースになっている。路面電車は子供からお年寄りや観光・ビジネス客まで、誰もが気軽に移動できるというマイカーにはない特性を持つと同時に、都市のストーリー性、お店、食、文化施設、にぎわい、安心安全なアフター5、そしてシンボルとしての歴史的建物や伝統的な環境を残し、かつ歩くたびに新しさが感じられる文化の重層性のあるまちづくりを行うという大きな視点がある。
こうした王国が一朝一夕に形作られたのではない。それを証明しているのが、富山地方鉄道の路線であり、立山黒部アルペンルートである。
富山地方鉄道は、総延長93.2`。これは大手私鉄の京王、京急、阪神を超える営業キロだ。そしてアルペンルート。全国でここしか走っていないトロリーバスが二社によって運行されている。架線から電気を取り入れて走るトロリーバスは、線路上を走らないものの法的には立派な鉄道なのだ。
富山地方鉄道の長大路線とアルペンルートの開発に取り組んだのが佐伯宗義(1894−1981)である。立山町芦峅寺の生まれで、除隊後、30歳で福島県の鉄道会社に迎えられ、その後、社長に就任。同県の鉄道事業の根幹をつくった。
帰郷後、今度は富山県の交通事業に取り組んで、数々の功績を挙げたのはご存知の通りである。その思想の根幹を成すのが100年先を考えた「富山県一市街化」だった。
こうした一人の人間の偉大なる功績が背景にあって、今日の富山の姿があることを、われわれは今一度、思い出さなくてならないのではないか。
世界で100番目の路面電車が街を変える
その上で、「百年大計の鉄道志向のまちづくり」をすることが、これからの重要課題である。それによって駅のにぎわい、都市のにぎわいが形成でき、環境問題や人口減少社会、中心市街地衰退といった課題も解消できるのではないか。公共交通が活性化されれば、自動車事故も減少するだろうし、なにより、昨今、問題になっている飲酒運転撲滅へ大きな力になることは言うまでもない。
一方、路面電車の復権は遊歩の復権につながる。生活者の交通の第一歩は歩くことから始まり、そして観光の本質は遊歩にある。広い地域を遊歩するとき、歩行を補完する交通手段があってこそ、都市型観光が成り立つ。遊歩を促すためには、「旅道中」を楽しむ仕掛けも望まれる。「文化」を取り戻し、「スローライフ」へ回帰する。オンリーワンの多様な乗物もある立山黒部も含めた「とやまLOHAS電車・乗り物歩く旅」の発想である。
交通特区でまちづくりを
地域が主導権を持って、環境と文化の両面から景観を含めたまちづくりをする。そんな市民合意と方向性の明確なビジョンによる「交通特区」をつくることを提唱したい。
地方分権で核心となるのは権限と財源の移譲である。特区では交通に関わる権限を一本化し、財源運用の柔軟さ、様々な制度・政策のパッケージ化、利便性ある一環性・連続性路線網とサービス情報提供、インセンティブ自由運賃設定、都市計画等々が一体となった施策が考えられる。新幹線ストロー対策、交流人口増、定住化効果も期待できる総合的交通体系まちづくりである。
また、単に公共交通機関の利用を呼びかけるだけでなく、車に代わる移動手段の情報を利用者側の立場に立って提供する必要がある。例えば一体となった地図・時刻表、無料・割引利用者サービスパック、環境健康グッズ・名誉特典など、協力者が自然に増える仕掛けと具体的にわかりやすく見える・見せるものに加工提供することがより求められる。
全市町村から鉄道で30−60分以内に新幹線駅に行くことができる都道府県はまだ無い。交通特区が実現し、多面的な機能を持った全県LRT化が整備されれば、交通網による沿線の施設集積・居住化はもちろん、派生する起業化、新産業創出を促す経済効果を含めて豊かな文化・環境を合わせ持つ国内で一番恵まれた県となるだろう。
そんなことを考えさせられたオーストラリアLRT視察であった。この体験の一部はプロデュースした11月25、26日の3部構成「とやま富山・高岡・射水3市長サミット・LRTフォーラム」及び3電車ツアーで、3市長による路面電車の北陸線乗り入れ、城端線はじめ各枝線のLRT化やコミュニティバス活用促進策等の発言を引き出し、又、全県LRT化ビジョンを発表させて頂いた。
三番目はタスマニア島の「北前船の足跡・昆布養殖の謎」と「動物たち」である。
ホバート港に北前船の足跡があるとか、どうして昆布養殖がはじまったのか、その場所を見たいと思っていたがその機会はなく、又、1990年制作の映画「タスマニア物語」として知られている絶滅した幻のタスマニア・タイガー(タスマニア・オオカミ)を筆頭にウォンバット(オオフクロ)、ワラビ、タスマニア・デビル、エテドナー(ハリモグラ)、ポッサム(フクロウギツネ)、カモノハシに代表される独特な島の動物たちに関心と興味があったが、いずれも目的を達することはできなかった。しかし、島の神秘の一端に触れたこと、世界遺産の樹木の花から生まれた希少なハチミツをお土産に持ち帰ったことが収穫であった。
おわりに
07年3月の今、豪州は晩夏である。息子も日本の春休みを利用して語学研修を兼ね日豪の大学生や豪州のベンチャー企業と交流をしているようだ。
私にとっても再び訪れたい魅力的な国である。
以上
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